遊風の養生日記Ⅱ

術伝流の愉癒庵遊風(颶風颯雷電)が、鍼灸操体食養はじめ養生について書いていきます

現代中医・ファシア説・DNなどは基盤にしない理由

 私が、現代中医・ファシア説・DNなどは基盤にしない理由を書いてみます。この件は、先日書いた以下のブログの続きです。

「主体に成れ、制御可能なものに基盤の置いた方が良いのでは?」
http://d.hatena.ne.jp/kuhuusa-raiden/20180509/1525836093

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(1)現代中医:1970年代後半の文革後期の紅衛兵の作品で、伝統医学とは関係無いと思うから。
 ニクソン訪中、鍼麻酔映像、日中国交正常化などの時代(1970年代前半)は、文革(前期)の評価は日本でも高く、毛沢東思想で書かれたビジネス書がシリーズで出ていたほどでした。が、1976年に周恩来毛沢東が相次いで亡くなり、文革後期は跡目争いの時代、中華人民共和国の歴史上、もっとも荒れた時代。現代中医の統一教科書は、その文革後期に、紅衛兵毛沢東思想に基づいて伝統医学を解説したもの。

 私は、1970年代前半に早稲田大学理工学部数学科の学生でしたが、教養科目で中国研究という科目が有り、毛沢東理論を習いました。担当の先生は、前記の「毛沢東理論で書かれたビジネス書シリーズ」について、毛沢東理論は、殆どが、あの時代の中国(の紅軍)でしか成り立たないことだから、あのシリーズは読まない方が良いと言っていました。彼によれば、毛沢東思想で、時所を超えて成り立つのは、「了解」と「有理有利有節」のみ。「了解」は、日本と違い、「実践が終了した時に、実践を振り返って経験則を見付け出し、それを次の実践に活かす」という意味。「有理有利有節は、理が有るか、利も有るかを、節目節目で点検しながら実践する」という意味。

 そして、現代中医は、了解と有理有利有節という視点が殆ど無いように思います。操体橋本敬三先生、江戸時代の鍼灸書、灸の深谷伊三郎先生、鍼灸の代田文誌先生などの方が、了解と有理有利有節という視点が有るように思います。了解や有理有利有節という視点が有れば、症例を沢山残し(了解の実践)、時々は症例をまとめて振り返って理が有り利も有ることを見付けし、経験則や自然則を書き残す(書き直す)ということを実践すると思うのです。

 中国の鍼灸書では、1970年代前半に見た「裸足の医者」用のテキストの方が、了解や有理有利有節という視点が有り実践的だったように思います。まぁ1950年代後半から1960年代に日本の鍼灸書が沢山中国に輸出されたそうなので、当然かも知れません。日本の鍼灸書の輸入は、中ソ対立でソ連医師が引き上げたことから、伝統医学の発掘が提唱され、その一環とか。
ーーー 追記:2019.12.26 ーーー
 日本の鍼灸文献を日本から中国へ送ったのは、楊名時先生など戦時中に日本に留学し戦後も日本に残った人達。代わりに日本に来たのが、簡化太極拳など。そして、楊名時先生は簡化太極拳を日本で伝えはじめ、しばらくして朝日カルチャーが新宿で1976年に始まり、そこの太極拳教室の最初の教え子の一人が帯津良一先生。
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 現代中医は、毛沢東思想が基盤ですので、改革開放政策が一般化した1980年代中半からは、中国の医療現場では使用されず、現代医学で診察診断し、中医の湯液や鍼灸を処方したそうです。その頃に中国医療現場に行った帯津良一先生は、気功太極拳は自分の病院に取り入れていますが、現代中医は取り入れませんでした。

 現代医学が基盤のせいか、証の増え方が早く、しかも北京や上海などの大学ごとに違う証が出てくる状態だそうで、その辺りが『専門医のための漢方医学テキスト』から、現代中医がすっかり無くなった原因だそうです。この辺り、以下が詳しいです。
「漢方・鍼灸を活用した日本型医療創生のため調査研究」
http://kampo.tr-networks.org/sr2009/index.html
 
追記:2018.8.11ーーーーーーーーーーーーーーー
 しかしながら、中国は王朝が変わらないと中心思想が変わらない国…逆に言えば、王朝が変わるたびに焚書坑儒を繰り返してきた国(儒教は秦の前王朝の周の国教)…なので、共産党王朝が続く限り、現代中医は今のまま変わらない可能性が高いです。
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(2)ファシア説:鍼灸あマ指操体など伝統医学的物療は、筋の機能性病変の改善と思うから。ファシアの変化は、筋の機能性病変の改善に合わせて変化しているだけで、ファシアの変化が先では無いと思うから。

 例えば、「筋膜ファシアの重なった所で鍼を留め、そこで鍼を操作して先ず筋膜ファシアの重なり(癒着)を解消することを切っ掛けに、ツボの状態や筋の過緊張過弛緩や症状を改善した」経験は、私には有りません。過弛緩した筋肉と過緊張した筋肉の間に,ベタベタした感じの場所が在ることが多いです。そこが筋膜ファシアの重なり(癒着)なのかなとは思います。が、そこで鍼を操作して先ず筋膜ファシアの重なり(癒着)を解消することを切っ掛けに、ツボの状態や筋の過緊張過弛緩や症状を改善した経験は無いです。
 そういう状態では、私は、筋膜ファシア説を基盤には出来ません。そういう(鍼先でファシア癒着を解消したことを切っ掛けに筋の過緊張や症状を改善した)経験や症例をご存知なら、教えてください。検討したいので。

 逆に、筋の機能性病変の場所、過緊張の筋肉に鍼して、先ず筋の過緊張を改善することを切っ掛けに、ツボの状態や症状を改善した経験は沢山有るし、90%以上の確率で可能です。過弛緩の筋肉に鍼して、先ず過弛緩の改善の切っ掛けに、ツボの状態や症状を改善した経験も沢山有るし、80%以上の確率で可能です。あと、皮内への浅い刺鍼や表皮への接触鍼を切っ掛けに、筋肉の過緊張過弛緩やツボの状態や症状を改善した経験も沢山有るし、70%以上の確率で可能です。

 ですから、私は、知識としてファシア説は勉強しますが、それを基盤には出来ません。筋肉の機能性病変の改善という視点を基盤にしています。

 私と似たことを局所麻酔で実践している医師の加茂淳先生も筋膜ファシア説には疑問のようです。私は、加茂淳先生の説の方が納得できます。
「筋膜リリース(筋膜はがし)に対する考察」
https://junk2004.exblog.jp/25945193/
「筋膜癒着痛についての質問」
https://junk2004.exblog.jp/26716301/
 
ーーー 追記181011:ドライニードルとの関係は以下 ーーー
「ファシア論とドライニードル」
http://d.hatena.ne.jp/kuhuusa-raiden/20181011/1539245772
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ーーー 追記:2019.01.09 ーーー
 現代生理学的視点、特に興奮性組織の視点からも、筋肉の変化の方が先で、ファシアの変化の方が後と思います。

 生理学上、興奮性組織は、筋、腺、神経の3つですね。ファシアは、興奮性組織では無いですね。ですから、筋の変化が先で、ファシアは筋の変化に合わせて変化しているだけだと思います。

 つまり、
 
 「重力負荷→筋の過緊張→筋の表面積の減少→ファシアの重積」、
 
 「(ファシア重積への生理食塩水注入→筋への垂直持続圧(指圧と同じ)→)筋の過緊張の改善→筋の表面積が増大(+水毒の放出)→ファシア重積の改善」
 
 以上の方が生理学的メカニズムとして考えやすいです。

 過緊張した筋から水毒が放出されるのは、葛根湯を肩背部の筋緊張に使用した際や、肩背部の筋緊張に鍼した時に、発汗という形で観測できることが多いですね。(ファシアが興奮性組織に認定されたら、教えてください。よろしくおねがいします。) 
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(3)DN(ドライニードル):元は注射針でしていたことを、効果(実効性)、操作性、安全性から鍼に変えただけと思うから。

 技術的にも、江戸時代の日本の鍼灸書、『鍼道発秘』、『杉山真伝流』、『鍼灸重宝記』の方が高いように思いますし。

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 繰り返しに成りますが、1980年代末から今までの、日本人で現代中医に基盤を置いた医師の栄枯盛衰を見てきたので、日本の伝統や自分自身の経験に基盤が無い、自分が主体に成れず、制御が効かないことが基盤で有ることの脆さ危うさを感じていました。
 現代中医だけでなく、ドライニードルも、解剖学筋膜ファシア説も、日本人鍼灸師が主体に成れないし、制御可能でも無いように思います。日本人で現代中医などに基盤を置いた場合に、流行が去った時の患者さんへの説明変更が難しいし、面倒臭さいように思います。特に、中医などの解説本を書いてしまっていた場合。
 
 
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この内容のURLは以下です。

「現代中医・ファシア説・DNなどは基盤にしない理由」
http://d.hatena.ne.jp/kuhuusa-raiden/20180522/1526971086