遊風の養生日記Ⅱ

術伝流の愉癒庵遊風(颶風颯雷電)が、鍼灸操体食養はじめ養生について書いていきます

原発事故後の病気予測に疫学(=統計)は、有効なの?、そもそも科学的なの?

 江川さんの新聞掲載の文章がツイッターなどで、論議を巻き起こしているようです。
 
放射能を必要以上に怖がることは「エセ科学」=カルト宗教-新聞論説から」
http://onodekita.sblo.jp/article/47604135.html
コメントふくめて、論議の概要を知ることができます。私もここに書いていくことに元になったコメントを書きました。
 
 私には、まず、全体的に、ジャーナリストとしての取材不足、基礎知識不足を感じます。具体的に、私が感じた疑問は、以下です。
 
豆乳ヨーグルトをすすめた方や、実際に作っているお母さん方を取材したのだろうか?
・腐った豆乳と豆乳ヨーグルトの区別は、ついているのだろうか?
・牛乳の汚染の実態を知っているのだろうか?
放射線を怖がるお母さん方をエセ科学批判をしている方々に、幸福の科学はじめカルトの方がおおい(たとえばFBなどで)という話は、ご存知なのだろうか?

 私自身は、ツイッターなどでやり取りの経過やツギャルしたまとめをよんだ感想として、発酵食品をすすめている方や実際に作ったりしている「放射能を怖がる」お母さん方のほうが、それをエセ科学と批判する「エア御用」の方達よりも、はるかに科学的に行動しているように思います。
・・・・・・・・・
江川紹子さんから苦情が来たので関係ツイートをまとめました http://togetter.com/li/179039

irukatodouro @amneris84 江川さんは論文になっていないチェルノブイリの周辺都市の現実を告げる報道をご覧になりましたか? http://goo.gl/FpCiX http://goo.gl/rUwnz あなたのような影響力ある方があまりに暢気なことをおっしゃってるのはおどろきです

上記以外は、震災・原発自然エネルギー〜110831朝 => http://bit.ly/otPD5n
・・・・・・・・・・

 そもそも科学的とは何でしょう。疫学は、統計学がベースの定量的科学です。毎年繰り返される現象には有効ですが、たまに起きることには無力です。たまに起きることには、現場の観察からの帰納のほうが有効です。
 
 入試の偏差値による予想や、天気予報なんて、有効なほうの例です。毎年繰り返され、間違いが多ければ、そのたびに修正可能だからです。しかし、入試予想は、制度や教科書が変わると外れやすくなりますね。天気予報も、異常気象とかあれば、外れやすくなります。調査前の前提で統計をとっているので、前提が変わると予測はハズレやすいのです。
  
 9月1日がここ3年間晴れだとして、今年も晴れるとは限りませんよね。30年間晴れだとしても、今年も晴れだとは、言い切れません。統計だけで、予測するのは、そういうふうな難しさがあります。
 
 医療の世界でも、毎年季節的に繰り返される病気、季節に関係なく毎年沢山の方がかかる病気は、毎年修正が可能ですので、疫学的手法が有効です。普通のカゼとかですね。インフルエンザになると、毎年流行する型が違うので、少し予測が難しくなります。まして、数十年に1度の新型インフルエンザになると、症状や流行形態の予測は、ますます難しくなります。
 
 原発事故は、今までおこったのは、3回です。事例数の少なさは、新型インフルエンザ以下で、統計的な記録が残っているという面でも、新型インフルエンザと大差ありません。本来なら、統計学をベースとする疫学が有効とは言いがたい事例です。こういう場合には、似た事例の原爆の例もふくめ、現場の観察と記録からの帰納(定性的科学)のほうが向いています。できるだけたくさん症例を集め、その症例から、おこりえる症状を予測するほうが有効だと思います。

 そもそも、チェルノブイリでは、疫学調査が行われなかったようです。
「「疫学調査の見通し立たず チェルノブイリ事故20年 2006年04月27日01時38分 朝日新聞」 朝日新聞の記事は、もう見れないようですが、以下のブログにその概要が残されています。
「隠された事故報告 チェルノブイリ極秘 & 【ニュース】」(http://blog.goo.ne.jp/ryuzou42/m/200604/?st=0&page=3
 
 現場観察からの帰納により規則性を見つけ出し(定性的科学)、その規則性を統計的手法で検証する(定量的科学)というのが、自然科学の基本だと思うのですが、いかがでしょう。
 
 統計学的には、原発事故が1000回以上起きれば統計もある程度有効ですが、どんなに少なくとも十数回の事例がなければ、統計つまり疫学的手法だけで事態を予測し計画を立案するのは、無謀と言わざるをえません。
 
 こうして見ていくと、ICRP報告に書かれたことを科学的としてエセ科学批判を展開する「エア御用」の方よりも、ヒロシマナガサキの生存例やチェルノブイリの経験から学んでいる「放射能を怖がる」お母さん方のほうが、はるかに科学的なように、私には、思えます。
 
 そもそも、教科書や報告・論文などを検証もせず信じることは、科学ではなく、カルトそのものです。「放射能を怖がる」お母さん方は、情報を盲目的に信じているのではなく、実際に出来ることから試し、結果が出たかどうかを互いに連絡しあい検証しながら、すすめていますし、根拠となる論文なども探し共有しあっています。
 
 背景としては、福島はもともと農業県で、EMや乳酸菌が農業の様々な過程で使われ効果をあげていて、拭き掃除に使い実際に放射線量が落ちたことなどもあるようです。
 
 比較して、「エア御用の方」が実際に試したという話は、ほとんど出てきません。自然科学系を学んだ方なら、どちらがより科学的かは自明のことだと思います。江川さんが、このあたりについて、「エア御用」の方と「放射能を怖がる」お母さん方の双方をていねいに取材したかどうかも、疑問というか不明です。取材しないで書いたとしたら、エセ科学やカルトは、どちらなのかなと思われても仕方がないように思います。
  
 それで、私は、現時点では、「放射能を怖がる」お母さん方のほうが、「エア御用」の方や江川さんよりも、はるかに科学的に行動していると評価しています。
 
 逆に、江川さんやエア御用、そして、政府をふくめ、統計学の基礎知識が不足しているように思えてなりません。
 
 東大の児玉教授も、「今回の事例に疫学はあてにならない、疫学は、事が終わってからの学問」という意味のことを言ってらしたと思います。
 
 私は、オウム事件や検察関係などの取材では、江川さんを評価していたので、今回の件は、大変残念に思っています。できれば、取材をしなおし、その結果をふまえて文章を書きなおしたほうがよいように思います。
 
・・・
前にも書きましたが、このブログの筆者は、早稲田大学理工学部数学科卒で、在学中は数学基礎論・数理論理学ゼミに所属し、統計学、誤差論の単位を取得しています。