『専門医のための漢方医学テキスト』
専門医のための漢方医学テキスト―漢方専門医研修カリキュラム準拠
- 作者: 日本東洋医学会学術教育委員会
- 出版社/メーカー: 南江堂
- 発売日: 2010/03
- メディア: 大型本
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鍼灸学校の東洋医学概論や東洋医学臨床論なども、これをベースに書き換えられる可能性があるなと思って、読みたいなと思っていた。
日本東洋医学会学術教育委員会が編集しただけあって、現代中医学院派用語は、ほとんど出てこない。「現代中医学の成立へ」の項目でも、「清朝が倒れ、中華民国を経て毛沢東政権の中華人民共和国が成立してから、伝統医学の教育制度の必要上、新政府の指導で従来の医論の統合化がはかられた。いま一般に中医学理論とよばれているのがそれである。ただ、この伝統的理論は完全に統合されたわけではなく(またできるような性質のものではないが)、中国にもさまざまな流派がある。現在、中医学理論と称されているものは、あくまで教科書レベルのことであり、伝統医学といえども常に試行錯誤の状態にある。」と説明されている。
そして、おわりのほうに「鍼灸」の項目もあった。ここでも中医学院派的な説明はほとんどない。
しかも、「邪気」という言葉は出てくる。「病的状態において「実」は邪気の充満した状態をいい、邪気とは、生命力の拡張を阻害するもの、病気の原因、誘因である。」という表現ではあるが。そして、「寫:充満した邪気を排除することである」とのこと。
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Ⅶ鍼灸 1鍼灸医学総論 (p299〜p300)
③治療原則としての虚実,補寫
病的状態において「実」は邪気の充満した状態をいい、
邪気とは生命力の拡張を阻害するもの、病気の原因、誘
因である。健康体は発病せずに障害部位が発生するのは
その部位が弱っている、虚している、そこに邪(実)が
侵入するからと考える…鍼灸治療の原則は補寫である…
補:闘病反応の低下、体力低下を補うことである
寫:充満した邪気を排除することである
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つぎの鍼灸学校の東洋医学概論や東洋医学臨床論などにも、中医学院派用語は今よりかなり減り、場合によっては、このテキスト位に殆ど無くなり、邪気という言葉が入る可能性は高そうだなと思った。鍼灸の項目を書いているのが、北里大学東洋医学研究所の石野尚吾先生と柳澤紘先生で、しかも、石野尚吾先生は、現在の日本東洋医学会の会長で、東鍼校の5代目校長(1985〜2003)もされてたことだし。
日本東洋医学会、全日本鍼灸学会、和漢医薬学会、日本生薬学会、北里大学東洋医学研究所WHO伝統医学協力センター、富山大学医学部WHO伝統医学協力センターの6組織が協力した、日本東洋医学サミット会議(The Japan Liaison of Oriental Medecine:JLOM)が2005年5月にできているそうなので、そこで話し合われるのだろう。
また、日本東洋医学会の設立が1950年(設立準備委員が、細野四郎、大塚敬節、和田正系、龍野一雄、長浜善夫、矢数道明、山崎順、丸山昌朗、間中喜雄、藤平健、森田幸門の11人の先生方)で、漢方エキス製剤が健康保険に適用されたのが1967年、薬効分類に漢方薬の項目ができ多数の漢方薬が保険適用になったのが1976年だそうなので、医師のもとでの鍼灸が保険適用になるのも案外早いかもしれないなと思った。
薬効発現機序の解明には、バイオインフォマティクスも活用とのこと。
慶應の渡辺賢治先生が「伝統医学の国際化」の項目で、「米国で用いられている鍼は鍼管の付いている日本式であるが、日本発であることはほとんど認識されていない。米国国立衛生研究所がwhole medical systemとして、伝統中医学のみ取り上げて、「東アジア伝統医学」としなかったのも、情報発信を怠ってきた結果とも言える。西洋社会向けのアピールとともに、アジア諸国の団結も重要である。近年では、ASEAN諸国も伝統医学の国際化に熱心であり、こうした国々との情報交換が重要である。」と書かれていた。同感。
ーーー 追記 ーーー
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『専門医のための漢方医学テキスト』
http://d.hatena.ne.jp/kuhuusa-raiden/20101028/1288247718