遊風の養生日記Ⅱ

術伝流の愉癒庵遊風(颶風颯雷電)が、鍼灸操体食養はじめ養生について書いていきます

筋肉の機能性病変から考える東洋的物療の有効範囲

 「ツボ(とくに阿是穴)は、筋肉の機能性病変」という視点から、操体あマ指、鍼灸などのいわゆる東洋的物療の有効範囲を考えてみたい。


1.動作制限をともなう痛みなど運動器系
 いちばん分かりやすいのが、動作制限の改善だと思う。痛みが出る動作の一歩手前の姿勢で、最も伸びようとしている筋肉の筋腹で、最も伸びようとしている部分が機能性病変異なっていて、縮んだまま伸びなくて動作制限がでている場合が多い。無理して伸ばそうとするから痛みが出るということ。そこを緩め、つまり、機能性病変を改善して、必要に応じて自在に伸びることができるようにすればいいだけ。
 見た目に、そのラインがヘコんで見えることが多いので分かりやすいことが多い。そういうラインの中で筋肉が機能性病変を起こしているところを見つければ良い。
 2番目に多いのが、その姿勢で、最も縮もうとしている筋の最も縮もうとしているところ。
 いわゆる経絡的相関関係を利用して、手足の甲に鍼して運動鍼したりしても、そういう部分を緩ませることは、つまり機能性病変を改善することも可能。


2.内科系
 内科系病変も、その病を辛さを筋肉を緊張して耐えていることが多いので、その病を耐えるときに、どういう筋肉を緊張させるか考えれば、その病で、筋肉の機能性病変がおきやすい場所、つまり、その病に関係するツボが出ている場所が予測できる。
 人間は、地球という星の上で重力という負荷を常に受けている。そして、立って歩いているか腰掛けるか、横になって寝ているかが基本。そういう姿勢で、ある器官が悪いと、どういう筋が緊張しやすいか考えて見ると、経絡現象や、瑜墓穴も分かりやすい。
 背骨が立った姿勢では、重力は縦方向にかかるから、重力の負荷分担は、基本的に、立った姿勢で縦方向になる。どこかの器官が悪かったり、筋肉の機能性病変があったりすれば、縦方向に負荷分担がおきやすいということ。これが経絡現象じゃないかなと思う。
 寝た姿勢では、重力は体の横輪切り方向にかかるから、 どこかの器官が悪かったり、どこかに筋肉の機能性病変があれば、横輪切り方向に負荷分担がおきやすくなる。これが、いわゆる臓腑論的というか、瑜穴、墓穴のツボの出方なんじゃないかなと考えている。
 蛇足ですが、瑜穴の「瑜」は、本当は、王へんが無い字。


 1.、2.ともに、「ツボは、筋肉の機能性病変」ということから、自然に導かれてくることのように思う。このあたりまでは、按摩指圧などをふくめて、同じですね。


 鍼灸が違うのは、邪気を動かすことで、筋肉の機能性病変を改善していること。邪気が異常緊張した筋肉の異常活動電位だとすると、このあたりのメカニズムはおもしろそうだなと思っている。手技で邪気を動かす方もたまにはいるので、比較的というレベルではあると思うが。つまり、手技で気というと真気の場合が多いように思う。真気が毛細血管の流れと関係あるとしても、このあたりの差が何故出てくるのか興味深い。
 阿是穴が筋肉の機能性病変であること、それが邪気と真気の調整によって改善できることは、私には、最近の現代医学的研究成果と、杉山真伝流など江戸期の鍼灸文献とのあいだに矛盾がない、本質的には同じことのように感じられるので、個人的にはすっきりしている。


『杉山真伝流』皆伝之巻「鍼法撮要」の「気察」には
「鍼刺の要は、至気を以て、有効の時と為す。・・・邪気の至るや緊にして疾く、穀気の至るや徐にして和す。・・・」


 今までの臨床経験上、鍼灸が劇的な効果を出して喜ばれやすい疾患ということなら

1.線維筋痛症に代表される筋肉の機能性病変が直接関係する症状
2.女性の生理関連疾患

のふたつかなと思う。

 私が、資格取得1年目に患者さんに非常に喜ばれたのは、以下2例。

1.ぎっくり腰で歩けなかったのが30分後すたすた歩けた
2.十数年続いた生理痛が1年なかった

 1.関連で喜ばれることが多いのは、いわゆるムチウチやヘルニア症候群ですね。普通に運動器系の処置をするだけで、たいてい大丈夫なので。あと、もちろん、五十肩、膝・肘の痛み、指の腱鞘炎、(座骨)神経痛なども同様。とくに、ムチウチは、頸骨直ぐ上の筋肉の機能性病変が多く、そこまで鍼先が届けば確実に改善できるので、灸、あマ指、操体など他の治療法に比較すると、鍼がいちばん有利。

 2.は、不正出血、不順、子宮筋腫子宮内膜症不妊、難産、乳腺炎などにも関係するので、女性鍼灸師は、改善できると有利だと思う。

 あと、意外に感じられてビックリされるのは、

3.ニキビ、ものもらい、口唇ヘルペスなどの顔部の炎症性疾患
4.カゼ、腹痛
5.打撲、捻挫、傷跡の緩和
6.虫さされ、切り傷、擦り傷
7.めまい、偏頭痛
8.真夏の老人の譫語(せんご)、疳の虫
9.不眠

 これらは、はまると簡単に治るので覚えておくと便利。

 そして、これらのことも、阿是穴は筋肉の機能性病変ということと、それが鍼灸で邪気・真気を調整することで改善可能であることから、説明できるように思ってます。ようするに、毛細血管の血流が増える、患部への抹消循環の改善、そして、患部への神経伝達の改善につながるからということだと思う。

 逆に、むずかしいなと思うのは、器官破壊が主となる病変で、大きな怪我とかばかりでなく、内蔵が器官破壊されているものも難しい。長期にわたり関わることで、器官破壊された病変を再生(再変性)することもできないわけではないが、3ヶ月単位くらいの時間が必要のように思う。
 もっとも難しいなと思うのは、以下の3つ(もちろん、大怪我は除いた上での話ですが)

1.遺伝性疾患
2.中枢神経性疾患
3.進行性末期がん

 要するに、筋肉の機能性病変をいくら改善しても、届かないレベルの器官破壊であることが多いので。
 ただ、こういう場合でも、いわゆるQOL、つまり生活の質の改善、辛くて困っていることの改善には、関われると思う。私自身、脳性麻痺の次男の機能獲得訓練に操体鍼灸をずいぶん活用させてもらったし、利尿剤も効かなくなった末期の方の浮腫を改善して喜ばれたこともあるし、末期がんの疼痛緩和に関わっている方もいるし。
http://www.gsic.jp/palliative/pc_04/02.html
例えば、脳性麻痺での脳の病変は改善できなくても、それにともなう筋の病変は改善できるし、それができなかった動作ができることにつながるということ。こちらも指圧の先生で関わっている方がいるみたいですね。
http://tenohiranokai-samu.hp.infoseek.co.jp/index.html
 ただ、最近の研究では、脳細胞は復活しなくても、脳の神経線維やシナプスは新生することもあり、その場合には脳機能の改善は進むということらしい。筋肉の機能性病変を改善し、新しい動作ができることで、脳が刺激され、脳機能の改善につながることはあるだろう。