遊風の養生日記Ⅱ

術伝流の愉癒庵遊風(颶風颯雷電)が、鍼灸操体食養はじめ養生について書いていきます

筋肉の機能性疾病変から考える椎間板ヘルニアと膝関節症

 加茂先生の言う「筋肉の機能性病変」という視点から、椎間板ヘルニアと膝関節症を考えてみました。


 椎間板ヘルニアによる神経圧迫が痛みの原因とする考え方をとる医師の方が未だ多いということは言えると思いますが、加茂先生たちも書いてられるように、その病態生理学的根拠はないみたいなんですね。
 また、もしヘルニアによる神経圧迫が痛みの原因だったと仮定しても、椎間板は自分で動いてヘルニアを起こしているわけではないと思います。椎間板には動く仕組みはないですから。椎間板は、脊椎(背骨の骨一つずつ)にはさまれて脊椎の間にあるから椎間板という名前なんだと思います。
 脊椎になんらか不均衡の力が働き続けた結果として、それに押しつぶされる感じでヘルニアを起こしていると考えられてます。
 そこで、脊椎が自分で動くかどうかを考えて見ると、脊椎にも自分で動く仕組みはないので何らか別の動く仕組みを持つものの影響で、脊椎が不均衡に椎間板を押しつぶしているということになります。
 背骨をはじめとする骨を動かしているのは筋肉ですから、脊椎を動かしているのも筋肉と考えるのが妥当でしょう。
 つまり、もしヘルニアが原因だったとしても、まず筋肉が機能性病変をおこし、過緊張して自在に伸びることができなくなった状態になり、常に脊椎に不均衡な動きをさせ続けた結果としてヘルニアが起きていると考えられるように思います。
 私は、鍼灸による運動器系疾患治療の根拠は、操体の橋本先生の言われるように筋肉をはじめ運動器系軟部組織の改善と考えていますので、もしヘルニアが原因だったとしても、痛みが鍼灸で改善するのは、鍼灸により筋肉の機能性病変が改善され、筋肉が自在に緊張弛緩するようになり、その結果として脊椎に常時不均衡な動きをさせることがなくなり、結果として椎間板ヘルニアが少し戻るからではないかなと、加茂先生の本を読むまでは考えていました。(そういう意味でも、筋肉の機能性病変という考え方は、鍼灸の根拠につながるかもしれないと考えていました)


 でもまぁ、加茂先生の本に紹介された神経生理学を読んでみて、神経が圧迫されて生じるのは一般的には機能低下(動きにくい、感じにくい)であり、神経繊維の途中で興奮が発生することはないことは納得できましたので、もし、ヘルニア説をとるにしても、神経繊維を途中で圧迫した場合にその刺激がその部分から先の神経繊維に興奮を起こさせる生理学的メカニズムを解き明かす必要があるのではないかなと考えています。


 膝関節症の場合も同じで、膝関節や膝軟骨に自分で動く仕組みはないので、まずは、膝関節を動かす筋肉に機能性病変が生じて、自在に緊張弛緩できなくなった結果として、膝関節に不均衡な力が働く状態が続くということでしょう。それが常に続いていって、不均衡な力による圧迫に耐えきれなくなった結果として、軟骨がすりへってしまったりという、膝関節の変形という事態をまねくと考えます。ですから、鍼灸治療においては、膝関節への血行や神経伝達の改善もしたほうがよいでしょうが、まずは、膝関節の動きに関係する筋肉に機能性病変がないか見ていく必要があると思います。もちろん、治療の際には、見つかった機能性病変と経絡的(経筋的)関係のある手足のツボなども利用したほうが改善しやすいとは思いますが。